「MT4でEAは何個同時に動かせるか」という疑問は、大きく三つに分けて考えると整理しやすいです。ひとつはチャートに同時に載せられる数、もうひとつは端末やVPSで同時運用できる数、そして最後に口座全体として安全に扱える数です。この三つは似ているようで基準が違い、どれも環境や設計によって最適解が変わります。
まず基本のルールとして、チャート一枚に載せられるEAは一つです。同じ通貨や時間足で複数のEAを同時に走らせたい場合は、チャートを複製してそれぞれにEAを載せます。ここで重要なのは、各EAが自分の注文だけを正しく識別できるように、マジックナンバー(EAごとの注文識別ID)を必ず分けることです。これを怠ると、別のEAのポジションを思わぬタイミングで閉じてしまうなど、見えにくい干渉が起きます。
次に、端末やVPSとして何個まで同時運用できるかという論点です。ここには固定の上限はありません。実際にはCPUやメモリの余裕、ネットワークの安定度、各EAの重さ、そしてティックが集中した瞬間の処理待ちがどの程度発生するかで決まります。軽い計算のEAが中心で約定頻度も低いなら、標準的なVPSでも二桁個数を安定して回せることが多いです。判定が重く発注も多いタイプを混ぜると一気に負荷が上がり、同時発注の競合が増えます。CPU使用率が常に高止まりする、チャート操作が重くなる、約定が遅れがちになるといった兆候が出た時点が、その端末におけるほぼ上限だと理解してください。リソースに余裕を持たせるほど、急な値動きでも落ち着いて動きます。
三つ目は口座全体の安全面から見た「何個まで」です。EAを増やすほど同時に建つポジションが増え、証拠金の取り合いが起きます。普段は分散に見えても、相場のテーマがはっきり出ると複数のEAが同じ方向に傾くことがあり、想定以上に資金が拘束されます。ここではロットサイズと同時ポジション数の上限を口座単位であらかじめ決め、閾値に達したら新規を自動で見送る設計が役立ちます。さらに、エクイティベース(口座資産額にしきい値を置き、到達で新規停止や一括手仕舞いを行う方法)の安全装置を用意しておくと、連鎖的な損失を機械的に止められます。
ブローカー側の制限にも注意が必要です。口座ごとの同時保有可能数や短時間の注文回数に上限が設けられている場合があり、複数EAが同時に指値や逆指値を大量に置くと引っかかります。疑問があれば、想定する最大ポジション数と注文頻度を挙げてサポートに確認しておくと安心です。時間帯によってはスプレッドが広がり約定拒否が増えることもあるため、そうした時間の新規や一括決済を避ける運用ルールをEA側に組み込むと、必要以上にEAの数を削らずに済みます。
実務の目安としては、軽量なEA中心なら一つの端末で10〜20個程度から始め、負荷や約定品質を見ながら徐々に増やすのが現実的です。スキャルのようにティックごとの判定が重く同時発注が起きやすいなら、5〜10個でも限界が近づくことがあります。より多くを回したい場合は、端末を分けて通貨や手法のグループごとに分散させると安定します。同じ通貨や相関の強い通貨ペアを多数のEAで同時運用するより、テーマが分かれやすい組み合わせに散らすほうが、数を増やしても資金が詰まりにくくなります。
増やし方の手順も大切です。最初は少数で動かし、実際のトレード記録から約定遅延や発注エラーの有無、含み損が増える速度、証拠金使用率の推移を確認します。問題がなければ数を足し、兆候が出たら一歩戻すというやり方が、結果的に最短で上限を見つける方法になります。バックテストの良し悪しだけで数を決めるのではなく、リアル運用のデータに基づいて微調整を続ける姿勢が、台数を増やすときほど効いてきます。
以上のように、「MT4でEAは何個か」という問いに一つの数字で答えることはできませんが、チャート単位の制約、端末性能とEAの重さ、口座全体の安全設計、ブローカーのルールという四つの視点を順に満たしていけば、無理なく増やせる上限が自然に見えてきます。最終的な判断基準は、狙いどおりに約定して想定どおりのリスクで運用できているかどうかです。そこで問題がない限り、EAの数そのものは目的に合わせていくらでも増やせますし、もし不安定さが出るなら数を減らすか分散することで解決できます。数を追うのではなく、安定して再現性のある成績を出せる範囲を見極めることが、遠回りに見えても最も実用的な答えになります。